N家 シャム子さんの報告書(全文掲載)

N家 シャム子さんの報告書(全文掲載)

最初に

猫特有の香箱組みつつもすっと立てる姿勢で(実際こんな座り方はないのでしょうが、こういう感じで、私の斜め前に座っていた)、伏し目がち、コタツ布団の上に座って出迎えてくれた。

シャム子さんとすぐに繋がることができたもので嬉しく、正面に座ろうと思うのだが・・・「真正面は遠慮したいのです」というささやき声がしたもので、斜め45度の位置に、私はとどまった。(この角度が、彼女はとても落ち着くようで、最後までその位置だった)

私もシャム子さんに習って遠慮しながら(この遠慮という言葉は彼女をよく現している)、彼女をそっと見ていた。正確には見惚れていた。とても静かで品のある、優しいたたずまい。奥ゆかしい。 (学生の時、クラスに、こういう人が必ず一人はいたな。決して目立たず、本人も出しゃばってはこないのに、誰もが、ああ、あの人なら!と思える人が)と、私はすっかり感心してしまう。

「これから、お母さんの代理で、色々あなたの気持ちを聞きますが・・・私、あなたの写真見せられた瞬間から、ずっと、あなたに呼ばれていた気がする」

小さく遠い声が上の方から、そう!と響いてきたが、実際目の前のシャム子さんは、身を縮め恥じ入るような顔をするだけだった。やがて、答える準備が整ったという声が響いた。

質問①前にお世話してくれていたお家の人に、あなたが元気にしていると伝えたいですか?

ややしばらくしてから、消え入るような声で 「お母さんが伝えたいなら・・・そうして下さい」 「そうですか。お母さんには、そのように伝えますが・・・あなたはどう思うの?」と尋ねると、気を回すと言いかけ、気を遣う人たちだからと言い直して・・・世話になった人たちのことを、これ以上言いたくないという思いが、じんわり伝わってきた。(喜びや肯定の感情は、感じられない)

前にお世話してくれていたご家庭は、もし、Nさんがシャム子さんの話しをすると「ああ、元気にしていてくれて良かった」と思う以上に、「家も何かしなければとか、家に何かしてほしいのかしら」という考え方をする人たちのようだ。

シャム子さんは顔の前で両手を合わせ、「ありがとう、ありがとう(食事をいただいて」と言うのだが、気持ちの上で深い繋がりは持てなかったとも言いたそうだ。なので、もし伝えるなら本当にさらっとご報告・・・がいいかと。

前のお家の話しを聞いている最中、チラチラと見えた映像を、参考までに記しておきます。 (質問事項にはなかったので、本人に詳しく聞きだすことはしていない) いわゆるよくあるタイプの中年女性という顔立ち、小太り(そんなに老齢ではない)の女性が、がらがらと開けるタイプのベランダ窓から、食器を出している。白いお茶碗。コンクリート、遠くに林、畑も見える。

質問②家に来て幸せですか?

「お母さんが私を迎えに来てくれた時、私は本当に嬉しかった。(とても強い喜びで、その喜びの波動で辺りがパーっと明るくなる映像が見える)お母さんには、本当に感謝しています。暖かさ、平和、そして清潔であることが、どんなに嬉しいことでしょう」シャム子さんお気に入りのベッドがあるのかな・・・そのベッドに身体を横たえ、嬉しそうに目を細めている映像と共に、彼女の深い感謝と、そのあまりに深い感謝ゆえ、Nさんのお家へ来るまで、いかに過酷であったかが伝わってきて(シャム子さんは言わないのだが、こちらの身体が痺れるほどの痛みとして、伝わってきた)私は胸を打たれ、目頭が熱くなる。

「あのまま(外にいる状況)だったら、私は私でいられませんでした」 (自分を捨てていたというか、全てをあきらめていたという感じ。身体の調子が悪いこともあるが、シャム子さんが静かな誇りを感じている、自分の容姿(シャム猫の血統に対する誇り)を外では保つのは難しく、容姿を保てないこと=自分の精神を保っていくのが困難となる。精神のバランスを崩していくことに対して自覚があり、やがて自暴自棄になってしまうようで、とても辛かった。) 「お母さんは、私に安息(この言葉は、私の胸に一番響き、彼女も特別な思いを込めて語っていた)と平和と清潔、そして何より愛と、全てを私に与えてくれました。私には、もうそんなに時間が残っていないことわかっているけれど、その最後にこんなに静かで平和な時間を持たせてもらい、いくらお礼を言っても言い足りません」この先の言葉で、私は再び胸を打たれる。 「生きているうちに、安らぎが何かを知るなんて・・・私は思ってもいませんでした。ありがとうございます」

質問③何か言いたいことはありますか?

お母さんへ→ 「これからのこと。私のことを忘れないでください。今の私はいなくなっても、私は必ず合いに戻ってきますから」(今回、シャム子さんが伝えたかった重要な事)

現在のこと。Nさんが立ったままご飯を食べている所と・・・ふうーーっと長い溜め息をつく疲れた様子のNさんの映像がきて、シャム子さんの声が続く。

「お母さんの貴重な時間とお金を、私がずいぶん使っているって―私はそのことを、充分すぎるくらい知っています。でもお母さんは私に、遠慮しなくていいって毎日言ってくれるものだから、私はこうして甘えていられるの」

さくらちゃん(娘さん)→「お嬢さんに伝えてほしいの。(今回シャム子さんが伝えたかった重要なこと)あなたは、もうどうなってもいいという私の気持ちの信号をキャッチして手を差し伸べてくれたのに・・・私はあの時、全てをあきらめていたから、私にかまわないで!って、つい手が出てしまったの。引っかいたりして本当にごめんなさい」 (さくらちゃんが、あたしのお家にとか、こっちにおいでなどと言いながら、シャム子さんに手を出している―仲良くしようよとして、シャム子さんを撫でようとする映像を見せてくれた。

<7月頭にさくらが不用意に手を出し、引っかかれる。驚かしてしまったそうなので、私が後日猫に謝りに行く> Nさんから事前に送ってもらった、家に来た経緯には上記のように書かれていたが、真相は違っていた。シャム子さんはそのことをずっと気にしていて、今回お母さんにも、真実を知ってもらいたかったとのこと。

呼ばれるとさくらちゃんのもとへ行くのは、いわば彼女が命の恩人で、感謝しているからなのだが、それプラス、大人にはわからないピュアな繋がりがあるとも感じる。

Nさんから、シャム子さんへのメッセージを伝える ★お母さんはあなたと一緒にいられてうれしい

この文言には、即反応があった。「そんな風に言ってもらえて光栄です。必ず、また戻ってきます。だから、私のことを忘れないでほしい」 私はシャム子さんの写真に向かってNさんの言葉を代弁していたのだが、その写真上にも変化があった。絞ったように細まった瞳が通常の大きさに開き、顔の周りに、慈愛の象徴の紫―アメジスト色と言えばいいか・・・淡く優しい紫で頬が染まっていったのだ。

★あなたが一日でも長く、気持ちよく、過ごせるようにしたいと思っている

感謝の静かな気持ちが伝わってくるだけで、前のメッセージのような喜びや気持ちの動きは感じない。特に、一日でも長くということにシャム子さん本人は、こだわっていないと感じる。Nさんも感じていると思うが、シャム子さん自身も、これからのことを静かに認識し、抗うとか戦うという気持ちは感じられない。

シャム子さんの喋るペースが少しずつスローになっているのは感じていたが、ここらへんまでくると、とうとう、香箱を組んだまま何も言わなくなった。

私たちは、斜め45度の角度を保ってこたつ布団の上に座っていたのだが、突然、シャム子さんの座っていた箇所だけがこんもりと盛り上がってきた。

するとシャム子さんは、嬉しそうな顔になって・・・その盛り上がった箇所へさっと上るとくるくる回って体勢を整え・・・自分のおさまりいい位置を見つけるや、横向きになって寝てしまった。

その盛り上がりは、Nさんがコタツ布団へ入れた足だと、私はなぜかすぐにわかった。(普段、このようにしているのでしょう) シャム子さんの横顔に、午後の穏やかな日が差しこみ、太い黄金色の帯が、シャワーのように降り注いできた。 すると、今見ているこの光景は、シャム子さんが最も安息を感じる状態で・・・それを私に見せてくれた(=Nさんに見せたい)という認識が湧いてきた。

シャム子さんの身体は、少しずつ、黄金色の光と同化し始めていた。そして、その光の中から、シャム子さんの満ち足りた声が湧き上がってくるのを、私は見ていた。(声を見るという表現は通常あり得ないが、黄金色の光と声が一体になって湧き上がってくるもので、この時は見たという感覚に近いものだった)

「お母さんの愛情と献身に、私はただただ感謝をしています。生きていて良かったと心から思って死ねることくらい、幸せなことはないのですから」

以上ご報告いたします